三国犬猫科医院/動物眼科アイ 三国 一騎先生 波田 久美子先生
ユーザーレポートの第二回目にご紹介する製品は、アイケア・フィンランド社のトノベット手持眼圧計。
極小のプローブを角膜に接触させて測定する方法ながら、点眼麻酔薬が不要というユニークな特徴を有する製品ですが、実際の現場ではどのように受け入れられているのでしょうか。
北海道札幌市の三国犬猫科医院/動物眼科アイの院長としてご活躍されている三国一騎先生と波田久美子先生にお話を伺いました。
- トノベットのどのような点に興味を持たれましたか?
- 初めに興味をもったのは、その独特な形状です。
自分の中にイメージとしてなかった形状でした。実際に使用してみて測定方式と形状の関連を理解することができました。
従来使用していた眼圧計は指先だけで保持するため、眼圧測定中に動物が動いた際に落下させたことがありました。また測定の際に、手首又は上腕を動かさなければならないので、本体の固定が難しくデータが不安定でした。トノベットは従来の眼圧計より少し大きいのですが、手で完全に握る形状のため保持しやすく、測定の際もボタンを押すだけなので本体の固定が容易で測定部位が安定するため、良好なデータが期待できると思いました。
点眼麻酔も不要とのことで私自身でも試してみましたが、全く痛みが無かったですね。
それに準備から眼圧測定終了までの時間も早く簡便でしたので、これなら動物にも優しく、今まで測定困難であった症例にも使用できると思い導入を決めました。 - トノベットを導入してどのようにお感じになっていますか?
- 導入して本当に良かったと思います。私が眼科診療を行うようになった当初は、触診やシェッツ眼圧計で眼圧測定を行っていました。次に手持式の圧平眼圧計、現在はトノベットと様々な眼圧計を使用してきました。
長年通院されているオーナー様も、従来の眼圧測定は時間もかかり大変だという印象をお持ちのようでしたが、トノベットを導入してからは「早くて楽ですね」という声を頂くようになりました。
- 点眼麻酔やキャリブレーションが不要であるメリットについてはどのようにお考えですか?
-
検査前の準備時間が短いことは大きなメリットです。
点眼の手間が無いことは勿論ですが、点眼麻酔による不快感を与えないことや、涙液量の変化なども考慮しなくてすみます。また、長期的な副作用(ドライアイ)の心配もなくなります。猫での点眼麻酔の使用には注意が必要ですから点眼不要なのは安全だと思います。
以前の眼圧計では、時として何度もキャリブレーションを行わなければならず時間がかかりイライラすることもありました。このようなことが続くと眼圧測定自体を敬遠してしまいがちになりますが、トノベットではキャリブレーションが不要なので眼圧測定へのストレスが無くなり、消極的であった眼圧測定を積極的に行えるようになりました。結果として眼圧測定件数が倍増しました。
動物病院では症状に合わせて様々な検査が必要であり、スムーズに短時間で終了できることが重要です。
簡単・手軽に眼圧測定ができるトノベットは、そのニーズを叶えてくれる唯一の眼圧計だと思います。
- トノベットの測定データをどのように評価されていますか?
- 非常に再現性の高い安定したデータをいつでも確実に出してくれるという印象です。
従来型の眼圧計の接触部は扁平で大きく、角膜に「面」で圧平して測定するため、測定者の体調や押し当て方、角膜曲率による差などがデータに影響を与えていたと思います。それに対して、トノベットのプローブは小さく、角膜に「点」で接触し測定するため、眼球の大きさや角膜曲率、当てる角度に対する誤差も少ないと思われます。 - 猫の眼圧測定やデータに関してはどのようにお感じになっていますか?
- 私の経験上、猫の場合トノベットでは少し高めに出るという印象を持っています。
猫自体の問題としては、角膜内側に凹凸があり厚い部分と薄い部分が存在するのでその点も影響するのではと思います。眼圧計に限らず検査器械にはそれぞれデータの出方に特徴がありますので、まず測定者自身が検査器械に慣れ、特性を理解することが重要です。
その上で「この器械でのデータがこのような結果だからこういう病気が考えられる。」と関連づけることが大切です。
トノベットは誰にでも簡単に眼圧測定ができる器械ですので、症例を多く経験することでデータの蓄積や関連づけがしやすくなると思います。 - 犬と猫の眼圧測定の割合は?
- 八対二くらいでしょうか。
- 従来の眼圧計と比べて、測定中の動物の様子はいかがですか?
- 今まで眼圧測定が困難であった動物に対しても、容易に測定できるようになりました。
点眼麻酔が不要で、測定が迅速なトノベットは、動物へのストレスを最小限に抑えていると思います。
動物は、一度嫌な思いをすると次回の検査や診療がスムーズに行えなくなりますので、ストレスをかけないと言うことは非常に重要なポイントになります。
測定不能な動物が減ったことや、準備・測定時間が短くなったことで私自身のストレスも軽減されました。 - 現在のトノベットの使用状況を教えて頂けますか?
- 全てトノベットで眼圧測定を行っています。ただし、明らかに所見に比べ測定結果が高値だった場合のみ従来型も使用して、ダブルチェックをしております。このような場合でもトノベットは信頼できる測定結果を出しています。
また、私に時間がなく手が空かない場合でも、助手の波田先生に眼圧測定を行ってもらい後で精査するということも可能になりました。
トノベットでは、測定のコツを理解している者であれば、誰が測定してもデータが安定しているという印象があります。
現在は私と波田先生しか使用していませんが、これからは動物看護師にも眼圧測定を行ってもらうケースが増えてくるのではないかと思います。
- 波田先生も、従来型の手持ち眼圧計を使用されていたのですか?
- 従来型の眼圧計を約6ヶ月間使用していました。
- トノベットの使用感はいかがですか?
- 開瞼幅が少なくても測定できるので、柴犬のように目の小さな動物の測定にも使いやすいですね。
従来型の眼圧計では、目に接触する部位を大きく取る必要があるため、開瞼時の眼球圧迫による眼圧上昇が心配でした。
トノベットではこのようなことがないので、測定データに自信が持てるようになりました。 - 眼圧測定の際、注意されていることはありますか?
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トノベットをぶれないようにしっかりと固定することですね。
これにより、角膜頂点とプローブとの距離が安定するので良好な測定結果が得られます。
何よりも重要なことは、保定者と動物の状態だと思います。
当院の場合、保定をオーナー様にお願いすることが多いのですが、眼球周辺や首への圧迫による眼圧上昇を避けるため「首を押さえるのではなく顎先を支える程度で良いですよ」と説明しています。 - 動物看護師の皆様が保定されることもありますか?
- はい、勿論あります。オーナー様に保定をお願いしても、扱いに慣れていないためにそれができない場合や、動物が検査を嫌がる姿を見てオーナー様に協力を頂けない場合です。
トノベットを使用してからは動物があまり嫌がらず測定も迅速なので、オーナー様も眼圧測定を楽しみに再来院して頂けることも多くなったと感じます。
- 動物眼科診療を長年続けられていますが、どのようにして眼科診察を啓蒙していらっしゃいますか?
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動物の全身を見ながら「眼が赤くないですか?眼をかゆがっていたり、しょぼしょぼしていたりしませんか?」などオーナー様に質問しています。
このような症状があった場合や緑内障の高発犬種といわれる柴犬、コッカー、キャバリア、シーズー、パグ、マルチーズなどのオーナー様には、狂犬病予防接種やワクチン予防接種時に行う健康診断の際に、眼圧検査の重要性を説明し「眼の検査をしましょうか?」と確認しています。
検診の際にグレーゾーンである測定結果が出た場合には、3ヶ月に1回程度通院して頂き経過観察しています。
以前にオーナー様から「昨日急に眼が見えなくなったようで物にぶつかりながら歩いている」という訴えがあり検査をしてみると、確かに片眼は前日あたりから見えなくなったと思われる所見があったのですが、もう一方の眼はかなり以前から見えていない状態でした。
両眼が同時に高眼圧になることはめったにありません。
早く気づいていれば、見えている方の眼はもう少し長く視覚を維持できたかもしれません。
早期発見できれば失明を未然に防げるケースもありますが、動物の場合はすでに手遅れになっている場合が多く非常に残念です。
緑内障を早期発見するためには各予防接種時の眼圧測定検査が非常に有効なのです。 - 眼圧測定を行う際の具体的な症例や症状はありますか?
- 眼球突出の場合には緑内障なのか眼窩病変なのかを判別するため、また、瞳孔の大きさをみて疑問があれば神経性の病気からなのかを判別するために眼圧測定を行います。
眼圧測定をしてみたら実はブドウ膜炎だったという症例も多いですね。
緑内障点眼薬を処方した場合には点眼薬の効果を確認する上でも眼圧測定は重要です。
白内障手術後では、眼内の炎症の度合いや縫合状態を把握するために眼圧測定を行います。この場合、眼球の縫合部分を保護するため眼瞼縫合を行うので開瞼部分は狭くなります。
同様に、角膜びらんや角膜潰瘍、眼球に傷がある症例などでは、非常に痛がり開瞼や保定が困難です。このように十分に開瞼できない症例でも、角膜への接触面積が小さいトノベットなら、眼圧測定が可能です。
柴犬の場合では、眼が陥没しているため開瞼が困難です。以前の眼圧計では測定できないのでやむを得ず瞼の上から触診で眼圧検査を行っていましたが、トノベットで眼圧測定してみるとかなりの高眼圧であったという症例を多く経験しています。
自分自身が今まで行ってきた触診が、いかにあてにならないかということが分かりました。見逃してきた症例も多くあったのかもしれません。 - 緑内障を早期発見できた場合、先生の治療方法はどのようなものですか?
- 状態にもよりますが、通常、点眼、点滴、内服で眼圧を下げます。
点眼薬での改善が見られない場合や内服を飲んでくれない場合などでは、半導体レーザーを使用して毛様体光凝固手術を行うか、緑内障バルブを埋め込む手術等で対応しています。 - 動物の視覚についてどのようにお考えですか?
- 視覚は動物にとっても非常に重要な感覚だと思っています。
視覚への依存度は人間より低いということが通説ですが、眼科診察を行ってきて失明した動物を多くみてきました。動物も失明した日から生活は一変します。食事では、匂いのする方向へは進めますが近くへ来ると探し始めます。排泄も同様で決められた場所にできなくなってしまいます。
ただし、犬や猫は視覚以外の感覚は人間より敏感で優れているので、徐々に視覚を失った場合や、失明後、何ヶ月も経過している動物の場合など、それらの感覚をフルに活用してリハビリすれば、決まった場所での行動はある程度できるようにはなります。
とは言え、近くの物体を識別するためには、視覚に依存している部分が大きいと思います。 - トノベットについて問題点や改善点などありますか?
- 特に不満はないのですが、あえて言うとすればプローブが自動装填になるとよいですね。
プローブのコストも多少気にはなりますが、ウィルス性結膜炎等の院内感染を予防する上でディスポーザブルであることは当然ですし、症例ごとに新しいプローブを使用して正確な測定データが得られた方が良いと思っています。
- 三国犬猫科医院/動物眼科アイ
- 札幌市中央区北6条西25丁目1-15
TEL : 011-621-0711 (三国犬猫科医院)
TEL : 011-621-3923 (動物眼科アイ)
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